物流

【連載第6回】 東南アジアのイーコマース活性化は物流発展に対する天の恵み【前編】

ECの発展に不可欠であるが、解決が難しい問題が「物流問題」ではないでしょうか。特に私が住んでいるインドネシアのジャカルタは世界最悪の渋滞都市とも言われており、物も人もなかなか動くことができません。そのような中でも、現地では環境に適合しながら新たなサービスが生まれ始めています。ASEANの中でも、最も物流が整っていないインドネシアの最新状況を伝える記事をご紹介します。

もしあなたがインドネシアで荷物を配送しようとした場合、まず頭に上がってくるのはJNEだろう。
この配送サービスは店舗も豊富であり、あなたの自宅近所でもきっと見つけることができるだろう。彼らの提供サービスはスピードが遅く、時として信頼できないこともある。また、大部分はオフラインで進むので、送り主が配送プロセスをリアルタイムでトラッキングする方法はない。しかし、それでもこのサービスは機能している。JNEはインドネシアのマーケットリーダーなのだ。彼らは島々を横断する各都市に総計3,500もの店舗網を備えている。その配送部隊は7,000台のオートバイ、2,000台のライトバン、契約トラック、そして17,000もの島々各所に配送するためのボートまで備えている。
物流の観点から見ると、インドネシアは非常に恵まれない地理環境に置かれているのである。

JNEは、このまき散った地理的環境の中で間接的に利益を上げてきた。また、現在ではインドネシアの3つの社会経済発展によりさらに利益を上げている。
3つの発展とは、中間層の増加、デジタル化、イーコマースの増加、だ。国家のGDP成長は新しい需要と消費パワーを生み出した。それに加え、現在では8,500万人のインドネシア人がインターネットにアクセスでき、彼らの多くは主要都市の中心から外れたエリアに住んでいる。彼らにとって、オンライン購買は単に便利なサービスというわけではなく、選択肢がないため必要不可欠なものとなっているのだ。

このような人々がインドネシアのイーコマース産業を加速させている。ロイターによれば、JNEは月間平均で400万個の荷物を配送している。なぜなら、オンライン購買に拍車をかけるすべての指標が上昇して、これからも成長する兆しを見せているからだ。

参照:インドネシアイーコマースの障壁(摩擦からの分離した事実)

成長が機会を生む

これらの発展は、インドネシアの経済成長が安定してきたことにより生まれたわけで、一晩にして成り立ったものではない。優れたビジネス洞察力を持つ起業家たちは彼らの視線をこの地域に投げ続けてきた。

その中の一人が、2005年までタイに在住していたドイツ人のピーターコピッツ(Peter Kopitz)だ。2012年、ドイツのスタートアップが東南アジアに足を踏み入れた時、彼はロケットインターネットタイランド設立チームの一員となった。コピッツはロケットのオンライファッションストアであるZaloraの共同創業者兼マネージングダイレクターとなった。

その豊富なイーコマースの経験と資金を用い、インドネシアを含む周辺エリア数か所で同時展開しながら、ロケットは大々的に東南アジアのイーコマース業界参入を目指した。スタンフォードの学位を持つインドネシア人、ハディウィナス(Hadi Wenas)はZaoraインドネシアの共同創業者兼マネージングダイレクターとなり、コピッツと同等の立場であった。

ロケットが参入した時、東南アジアはデジタル領域においてすでに大きなステップを進み始めていた。特に、インドネシアではブログやオンラインフォーラムの文化が花開いていた。また、インターネットは売買の場としてもつかわれていた。クラシファイドサイトのTokobagus(現在はOLXとしてリブランディング中)は2005年にスタートした。イーコマースマーケットプレイスのTokopediaは2009年に登場しはじめた。Zalora に似たオンラインファッションストアのBerrybenkaは2011年に創業された。

しかし、この時点では地元企業はまだ十分な財政的支援を得ていなかった。彼らは人々にアクセスすることはできた、しかし、彼ら自身が育ってきた環境を当りまえのものと見なしてしまうのであった。彼らが慣れ親しんでいたものとは、遅い物流や手動での支払い方式であり、彼らの限られたリソースでは実際にどうすることもできなかった。

ロケットが市場に参入した2012年、彼らは目の前に置かれた環境を受け入れられず、再構築を試みた。彼らがZaolaと共に描いていた大規模なB2Cビジネスを実現するためには、現状の物流サービス提供者では不十分だったのだ。

このことが、Zaloraタイランドにバンコクとチェンマイ中心地をカバーする自前の配送部隊を構築させた。そしてまた、このスタートアップは東南アジアの人々が好む支払方式、つまり代引き、に適合しなければならなかった。このことは、ZaloraのITシステムと物流パートナーがより統合されたプロセスを構築することを促進した。

新世代のイーコマース実現者たち

Zaloraタイランドでの苦い経験を通じ、コピッツは新しい機会を感じていた。2013年には彼はタイに拠点を置くベンチャーキャピタル、アーデント(Ardent)に新規事業に対するアドバイザー兼投資家として参加した。

アーデントキャピタルは、タイ系アメリカ人であるポール、トム、ジョン・スリーボラカル(Tom, and John Srivorakul)という3人の起業家兄弟によって創立された投資会社だ。

コピッツとアーデントは、専門業としての「イーコマース立ち上げ屋」が、権利を活用したビジネスモデルとして成立し得る、と気づいていた。こうして、イーコマースに必要となるサービスを端から端まで提供するaCommerceが誕生した。aCommerceは倉庫、配送、技術、マーケティング、そしてカスタマサポートまでを提供する。

タイから始まり、aCommerceはジャカルタを含む東南アジアの主要な都市に支部を開設していった。Zaloraインドネシアの共同創業者であったウェナスは、この新しいスタートアップのCEOとなった。

このコンセプトの元、aCommerceはキールズ(Kiehl’s)やネスレ(Nestlé)といった大型ブランドを獲得していった。そして、その時点の東南アジアでは過去最大級のシリーズA投資ラウンドを実現したのだ。

aCommerceの顧客にはZaloraや他のロケット関連会社も存在する。インドネシアではBerrybenkaのような会社が現在aCommerceを利用している。コピッツの話によれば、1年半の期間を経て、aCommerceは500名の社員を抱えるまでに成長した。

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進化する郵便サービス

倉庫と配送サービスはaCommerceの一部門に過ぎない。そして彼らが抱える50~60台のオートバイとライトバンから成る配送部隊だけでは機能が不十分なことも多くある。全地域をカバーするためには、地元の第三者物流提供者(local third-party logistics provider / 3PL)と連携しなければならない。インドネシアにおいては、最終配送区間の配送がことさら複雑で難しく、JNEのような会社が最大の配送ネットワークを持っているのである。

その他の経験豊富な物流会社も機会を見つけている。シンガポールでは、国営の郵便サービスであるシングポスト(SingPost)がイーコマースの物流ハブに多額の投資を行った。それは、aCommerceの物流と同等のサービス範囲を提供し、ezycommerceを通じて東南アジアのeコマースの顧客に手を差し伸べるものである。シングポストはまた、東南アジアでのオンライン小売ビジネス立ち上げサービスであるSP eCommerceも運営している。

インドネシアにおけるフェデックス(FedEx)の子会社であり、伝統的な物流提供者であるRPXもまた順応している。RPXはB2Bの配送サービスと国際物流をメインサービスとして提供していた。RPXのプレジデントダイレクターであるAndry Adiwinarsoは「我々は、単体の小売りを相手にするようなビジネスはスモールマネーしか生まない、と考えていた」と語る。イーコマースにおける商機を逃していると気づいた時、AdiwinarsoはRPXの戦略的転換をリードした。

RPXはイーコマース系顧客、そしてオンライン個人事業者の需要に対してより注意を払っていくことを決めた。彼は、この会社を「国際基準で高付加価値のサービスを提供する物流サービス提供者」として再度位置づけた。RPXは統合されたITシステムを活用してサービスを提供する。これは、顧客がリアルタイムで荷物の発送状況を追跡できることを意味する。なぜなら、荷物はすべての通過場所でスキャンされるからだ。配送、そして支払方式もデジタル化されている。RPXの配達人は持ち運び可能な端末を持ち歩いており、荷物の取り扱い情報を完璧・迅速に顧客システムに反映するのだ。これは技術的に優れたサービスであり、その他の3PL(第三者物流提供者)はいまだこのレベルでのサービスを提供できない。

RPXは本年中に月間平均で10万個の荷物を取り扱うことになるであろう、と予測している。しかし、この数字はJNEの400万個と比べるとまだ遠い。「Zalora, Lazada, Blibliは我々を選んでいる」と、Adiwinarsoは述べる。

古株の物流会社と提携しながらイーコマース事業者を支えるaCommerce。最新技術を導入しながら自社のサービスを拡充するRPX。戦略や方法は違えども、インドネシアでも来るべきイーコマース本格化に向けて先駆者が生まれてきています。私の周辺でもイーコマースを使うインドネシア人は少なくありませんが、配送時間がかかることが前提なので購買アイテムには制限があるように感じます。日本では「便利」「楽」「早い」「安い」など、イーコマースを使う動機がいくつかありますが、インドネシアでは「オンラインでしか買えないから」という理由が主な動機なのではないでしょう。物流が整うことで、利用者の層が広がることが期待できます。